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土地等・建物等の譲渡所得の税額軽減について(所得税と住民税)

2021/12/21

 「弘法も筆の誤り」といいますが、顧問先との打ち合わせの際、所得税のみを思い浮かべ、住民税について失念して回答したことはないでしょうか。納税者が納税額(税率)を聞く際は、所得税だけではなく、住民税も含めた納税額を知りたいはずです。
 譲渡所得は分離課税ですから、納税額を聞かれたときすぐに計算ができてしまいます。ですので、つい住民税のことを忘れて答えてしまうことがあります。譲渡は、所得が高額となることも多いですから、住民税についても考慮して税額を答えないと、後から、「思わぬ納税に悩まされた」と言われることになるかもしれません。ここで、もう一度軽減税率について、所得税と住民税についてしっかり確認して、忘れずに、アドバイスをしましょう。

1.分離課税

 まずは、譲渡の前提となる分離課税についてです。
 個人が土地等・建物等の譲渡をした場合には、他の所得と区分して所得税・住民税の計算を行います。これを、分離課税といいます。譲渡した年の1月1日時点において所有期間が5年以下であるものを分離短期譲渡所得、5年超のものを分離長期譲渡所得とします。

 例えば、令和3年の所得税では、
  平成28年1月1日以降に取得したものを譲渡した場合   短期譲渡所得
  平成27年12月31日以前に取得したものを譲渡した場合       長期譲渡所得
 となります。

 次にそれぞれの譲渡所得の区分に応じ、以下の税率で計算します。
 (1)所得税・・・課税短期譲渡所得の金額×30.63%
        課税長期譲渡所得の金額×15.315%
 (2)住民税・・・課税短期譲渡所得の金額×9%
         課税長期譲渡所得の金額×5%
 ※1 課税譲渡所得の金額は、居住用財産を譲渡した場合の特別控除等の特別控除や、所得控除が適用される場合には、特別控除や所得控除の控除後の金額となります。
 ※2 所得税の税率には、復興特別所得税(所得税率×2.1%)を含みます。(令和19年までの所得税に適用があります。)以下同じです。
 これが、通常の譲渡所得の税額の計算ですが、以下の税額の軽減の特例があります。

2.短期譲渡所得の税額軽減

(1)軽減の対象となる譲渡資産
 短期譲渡所得に該当する土地等で次に掲げる土地等の譲渡に該当することについて、財務省令で定める証明がされたものを確定申告書に添付した場合に適用が受けられます。
 ①国、地方公共団体その他これらに準ずる法人に対する土地等の譲渡
 ②独立行政法人都市再生機構、土地開発公社その他一定の法人に対する土地等の譲渡で、業務を行うために直接必要であると認められるもの
 ③土地等の譲渡で収用交換等によるもの
(2)税率
 ①所得税…分離課税短期譲渡所得金額×15.315%
 ②住民税…分離課税短期譲渡所得金額×9%
(3)その他
 収用交換等の場合の特別控除など、他の課税の特例を受けていても、重複適用が受けられます。

3.長期譲渡所得の税額軽減

(1)優良住宅地等のための譲渡

 ①軽減の対象となる譲渡資産
  長期譲渡所得に該当する土地等の譲渡による所得で、その譲渡が優良住宅地等のための譲渡の場合、証明書を確定申告書に添付した場合に適用が受けられます。
  対象となる、優良宅地等については、措置法31条の2第2項第一号~第十六号を参照してください。 
 ②税率

  イ 分離課税長期譲渡所得金額≦2,000万円の場合
   ㋑所得税・・・分離課税長期譲渡所得の金額×10.21%
   ㋺住民税・・・分離課税長期譲渡所得の金額×4%
  ロ 分離課税長期譲渡所得の金額>2,000万円の場合
   ㋑所得税…204.2万円+(分離課税長期譲渡所得金額-2,000万円)×15.315%
   ㋺住民税…80万円+(分離課税長期譲渡所得の金額-2,000万円)×5%
 ③その他

  他の課税の特例との重複適用はできません。

(2)居住用財産の譲渡

 ①軽減の対象となる譲渡資産
  譲渡の年の1月1日において所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡した場合に適用が受けられます。
  居住用財産とは、次に掲げる家屋又は土地等をいいます。
  イ その個人が居住の用に供している家屋で国内にあるもの
  ロ イに該当する家屋及びその家屋の敷地
  ハ イに該当する家屋でその個人の居住の用に供されなくなったもの
  ニ ハに該当する家屋及びその家屋の敷地
  ホ イに該当する家屋が災害により滅失した場合において、その個人がその家屋を引き続き所有していたならば、譲渡の年の1月1日において10年を超えることになっていたその家屋の敷地
  ※1 ハ~ホについては居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合に限ります。
  ※2 土地等と建物等の譲渡した場合には、両方ともに所有期間が10年を超えていなければなりません。
 ②税率
  イ 分離課税長期譲渡所得の金額≦6,000万円
   ㋑所得税…分離課税長期譲渡所得の金額×10.21%
   ㋺住民税…分離課税長期譲渡所得の金額×4%
  ロ 分離課税長期譲渡所得の金額>6,000万円
   ㋑所得税…612.6万円+(分離課税長期譲渡所得金額-6,000万円)×15.315%
   ㋺住民税…240万円+(分離課税長期譲渡所得金額-6,000万円)×5%
 ③その他
  居住用財産を譲渡した場合の特別控除(3,000万円控除)、収用交換等の場合の特別控除(5,000万円控除)、特定土地区画整理事業等の場合の特別控除(2,000万円控除)及び特定住宅地造成事業等の場合の特別控除(1,500万円控除)とは、重複適用が受けられます。
  特定の居住用財産の買換えの特例など、これら以外の譲渡に係る課税の特例の適用を受けている場合は適用を受けられません。

4.確定申告を終えたあと
 住民税は、譲渡した年の翌年6月以降に納税が始まります。所得税の納付が終わっても、住民税の納税資金を確保しておくことを忘れずにアドバイスしてください。

 執筆:大橋充佳 税理士/監修:湊義和 税理士

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