非上場株式を譲渡する際の所得税法59条1項(みなし譲渡)の時価について
2022/07/25
時価とは客観的な交換価値、すなわち不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価値である。純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して定められた価額は税法上でも適正な時価として認められる。
ところが非上場株式はそもそも市場がない。従って一般的には財産評価基本通達を準用して非上場株式の時価とすることが課税実務での取り扱いとなっている。財産評価基本通達では、会社の規模や議決権の割合で評価方法が異なる。ここで問題なのは、相続税及び贈与税は取得者課税となっており、相続あるいは贈与後の議決権の割合で評価方法が決まるのに対して、個人が法人に対して非上場株式を譲渡する場合の時価の算定では、譲渡直前の議決権割合に評価することとされている(所得税基本通達59-6)ところである。
しかし、法人税では評価損算定の規定であるが法人税基本通達9-1-14を準用し、その売買取引の株式数に応じた評価を用いるのが一般的である。つまり個人である支配株主が法人に対して会社支配に影響のない数量で非上場株式を譲渡する際の時価は、売手側と買い手側とで異なることとなる。所得税法59条1項は、個人が法人に対して譲渡所得等の基因となる資産を時価の1/2未満で法人に譲渡した場合等についてのいわゆるみなし譲渡の規定である。この同法59条1項をめぐる最高裁令和2年3月24日判決及びその差戻控訴審令和3年5月20日判決では「譲渡所得課税は、過去の増加益を清算して課税する趣旨目的」から「譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべき」として、納税者が行った配当還元方式による1株当たり75円の評価による譲渡を類似業種比準価額方式による1株当たり2505円であるとする更正処分は妥当であるとした。
ここで一つ疑問が生ずる。支配株主が従業員持株会に非上場株式を譲渡した場合である。従業員持株会の組成方法は二つある。組合型と社団型である。組合型は民法667条1項に基づく組合であるから株式の取得や譲渡についてはいわゆるパススルー課税となり、構成員である個人が取引をしていることとなる。つまり所得税法59条1項の対象にはならない。一方、社団型の従業員持株会については、所得税法4条では人格のない社団は法人とみなされるため、所得税法59条1項の対象になる。社団型の従業員持株会に支配株主が配当還元額で譲渡した場合、売手側に原則評価方法によるみなし譲渡課税が適用されうるというのは課税の公平の法理を逸脱するものであると考える。
<参考文献>
大淵博義 「所得税法59条1項「その時における価額」と時価二元論」 税務弘報2021.12 129頁~139頁
執筆:滝口利子 税理士/監修:川﨑啓 税理士