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スポットワークと源泉所得税関連業務について

2023/10/25

1.序
 最近、スポットワークの話がだいぶ取り上げられるようになってきたが、私のクライアントでもスポットワークで人員確保をするところが出てきています。尚、スポットワークとは、単発で短期間の労働で継続した雇用関係のないものをいいます。そこで、本稿では、スポットワークと税金(特に源泉所得税)の取扱いについて整理します。

 スポットワークによる人材の受け入れを行う場合、まず単独で行うことはなく、通常は紹介会社を介して受け入れることになります。紹介会社を介しての人員の受け入れとなると、代表的なものとしては派遣業者から人材を受け入れたりすることが多いのですが、スポットワークでは人材の派遣ではなく、あくまでも紹介(仲介)にすぎないことの方が多いようです。派遣であれば紹介会社に“外注費”として派遣費用を払い、紹介会社側で各作業者に給与を払うこととなり、源泉業務等も紹介会社側で行うこととなるので特に気にしなくてよいのですが、単なる紹介(仲介)となると、紹介会社には手数料を払って紹介を受け、作業者への給与の支払いはスポットワークを募集した側で行うこととなります。その場合の処理についてまとめてみるとともにスポットワークが増加していった場合の問題点について考察しました。

2.給与支払と源泉徴収について
 まず、給与の支払い自体は契約により時間給または日給により支払うことになりますが、その際、源泉徴収税額表の丙欄を適用し、(令和五年度版によると)9,300円以上の支払から源泉所得税を差し引いて支給することになります。ここで注意すべき事項は丙欄の適用が認められるかどうかを確認しておく必要があるでしょう。というのも丙欄適用については”2か月縛り[i]“というものがあるためです。

 丙欄はそもそも一時的な雇用を前提としています。すなわち、日雇いといった毎回雇用関係を結び直すことを前提としており、長期(通年を含む)の雇用を目的としながらも、甲欄だと月額88,000円、乙欄だとそれ以下にであっても源泉所得税が発生し、徴収義務が生じるために払う側にすると煩雑さが、支給される側からすると手取り額の減少につながるため、あえて短期日雇いという形式で丙欄適用にして源泉所得税を発生させないようにする、ということを防ぐため、2か月を越えたらその時点から甲欄または乙欄適用に切り替わる、という制度のことを2か月縛りといいます。

 普通に考えればスポットワークには影響がないように思えますが、同じ人が毎回のようにくる場合、この点が問題となる可能性が高いです。そのためにも、当該人物を雇い入れるためにスポット募集をしたのではない、ということを明確にしておく必要があるでしょう。そのためにもスポット募集については、長時間(通常のパート・アルバイトの募集と同等かそれに近い時間)の募集は連日行うことはしない(あくまでも臨時的に行う)、だとか短時間にしても特定の人の都合に合わせて募集をかけることはしない、ということも気にしておく必要があるでしょう。

 また、特定の人が何回も応募してくる場合には、直接雇い入れるかその方に来ていただくのを断ることも必要です。たとえその人が別途本業をしており、たまたまその時間空いていたから、ということであっても2か月を超えて入ってもらう場合には正式に雇用をして甲欄または乙欄を適用して雇用をするように切り替える必要があります。

3.年末調整事務
 さて、日々の処理や注意点は以上のようなものとなりますが、年末調整等の処理はどうなるのでしょうか。まず、源泉徴収票に関しては、所得税法226条の規定により、作成義務はあるものとされるが、50万円以下のものについてはその提出義務はない[ii]ため、毎回給与明細を渡していれば源泉徴収票を作成しなくても特に問題にはならないでしょう。[iii]問題となるのは、当該人物が年の途中から正式な雇用関係を結んだ場合と年の途中まで正式に雇用していた(甲欄ないし乙欄該当者)が一旦退職し、スポットワークにて参加してきた場合に年末調整事務をどうするか、です。

 スポットワークで働いていた者を正式に雇用し、その後甲欄または乙欄適用者となった場合には、通常の甲欄または乙欄適用者として年末調整事務を行う必要があります。(乙欄適用者は源泉徴収票の作成のみ。)その場合、丙欄適用期間の当該支払者の分は把握できますが、その他の支払者がいないかどうか確認が必要であり、全てを合算して源泉徴収票を作成する必要があります。

 年の途中で甲欄または乙欄適用者が退社し、その後にスポットワークにきた場合では、甲欄または乙欄の適用者の時に退社の源泉徴収票を作成しているはずですので、それを渡しているのであればスポットワークに参加した分については給与明細を渡すのみでよく、当該人物が確定申告をしている場合や他の給与支払者の年末調整を受ける場合には特に問題はないと思われます。[iv]そのどれも行わないとなると問題ですが、確定申告を促すのみしか対応のしようがないでしょう。

4.スポットワークが増加した場合の問題点
 スポットワークが益々増加することによって、源泉徴収制度が形骸化することが危惧されます。スポットワークというと、例えば飲食店ではホール係として働く人を想像しがちです。しかし、先日スポットワークとして調理担当者が働いているというTV放送を見ました。こうなると単にパート・アルバイトの補完とは言い切れなくなると思います。

 これまで見てきたようにスポットワークの源泉徴収については丙欄適用を前提に進めざるをえません。その場合、ほとんどのケースで源泉所得税が発生しないことが考えられます。

 また、同時期に複数の職に就くことにより、各給与支払者からの支払いについては源泉所得税が発生しないようにしながらうまく組み合わせれば十分食べていくだけ稼ぐことも可能でしょう。そうなると、まったく源泉所得税を取られることなく、また税務署等への報告もされない人たちが誕生することになります。これは源泉徴収制度の抜け穴となることが考えられます。今のうちに制度の整備を考える必要があるのではないでしょうか。
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[i] 所得税基本通達185-8(2)
[ii] タックスアンサー No.7411 
[iii] 作成するかしないは自己責任でお願いします。
[iv] 事前に該当税務署に確認してください。

執筆:栗林秀幸 税理士/監修:秋山高善 税理士

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