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第7回:種類株式の相続税法上の評価

2021/08/12

1.種類株式の相続税法上の評価方法(原則)

  種類株式の評価方法については、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)には定められていませんが、「平成25年版 財産評価基本通達逐条解説」の684頁~685頁の「〔参考2〕種類株式の評価方法」に、要旨次のような記述があります。

 
「平成18年の会社法の施行以来、非上場会社においても多種多様な種類株式の発行が可能になった。その相続税法上の評価については、権利内容(たとえば、配当や残余財産分配の優先劣後)など、さまざまな要因によってその発行価額や時価が決まってくると考えられる。しかも、このような種類株式については社会一般における評価方法も確立されていない上に、権利内容の組み合わせによっては相当数の種類株式の発行が可能であることから、その一般的な評価方法をあらかじめ定めておくことは困難である。したがって、評価通達に定める評価方法がなじまないような種類株式については、個別に権利内容等を判断して評価することしている。」

 これが、種類株式の相続税法上の評価における基本的な考え方です。


2.一部の種類株式の相続税法上の評価方法の公表

 1の基本的考え方だけでは、種類株式の相続税法上の評価方法が不明確で納税者にとっても課税当局にとっても不便であるため、中小企業の事業承継目的で活用が一般に想定される一部の種類株式([1]配当優先の無議決権株式、[2]社債類似株式、[3]拒否権付株式)については、「種類株式の評価(情報)」(平成19年3月9日)として具体的な相続税法上の評価方法が公表されています。


[1]配当優先の無議決権株式の評価

(1)配当優先株式の評価

 配当について優先・劣後のある株式を発行している会社の株式を類似業種比準方式により評価する場合、純資産価額方式により評価する場合は次のとおりとなります。

①類似業種比準方式
 配当について優先・劣後のある株式を発行している会社の株式の評価に当たっては、配当金の多寡は、比準要素のうち「1株当たりの配当金額(Ⓑ)」に影響するので、「1株当たりの 配当金額(Ⓑ)」は、株式の種類ごとにその株式に係る実際の配当金により計算します。

②純資産価額方式
 純資産価額方式で評価する場合には、配当金の多寡は評価の要素としていないことから、配当優先の有無にかかわらず、評価通達185((純資産価額))の定めにより評価します。

(2)無議決権株式の評価

①原則
 無議決権株式を発行している会社の無議決権株式については、原則として、議決権の有無を考慮せずに評価します。

②①に代えて選択適用できる評価法
 上記①の評価を原則としますが、一方では、議決権の有無によって株式の価値に差が生じるのではないかという考え方もあることを考慮し、同族株主が無議決権株式(次の2に掲げる社債類似株式を除く。)を相続により取得した場合には、次の条件をすべて満たす場合に限り、納税者の選択により、前記(1)または原則的評価方式により評価した価額から、その価額に5%を乗じて計算した金額を控除した金額により評価するとともに、当該控除した金額を当該相続により同族株主が取得した当該会社の議決権のある株式の価額に加算した金額で評価することができます(以下、この方式による計算を「調整計算」といいます。)。

【条件】
ア.当該会社の株式について、相続税の法定申告期限までに、遺産分割協議が確定していること。
イ.当該相続により、当該会社の株式を取得したすべての同族株主から、相続税の法定申告期限までに、当該相続により同族株主が取得した無議決権株式の価額について、調整計算前のその株式の評価額からその価額に5%を乗じて計算した金額を控除した金額により評価するとともに、当該控除した金額を当該相続により同族株主が取得した当該会社の議決権のある株式の価額に加算して申告することについての届出書が所轄税務署長に提出されていること。
ウ.当該相続税の申告に当たり、評価明細書に、調整計算の算式に基づく無議決権株式及び議決権のある株式の評価額の算定根拠を適宜の様式に記載し、添付していること。

[2]社債類似株式の評価

 社債類似株式とは次の条件を満たす株式です。

【条件】
ア.配当金については優先して分配する。また、ある事業年度の配当金が優先配当金に達しないときは、その不足額は翌事業年 度以降に累積することとするが、優先配当金を超えて配当しない。
イ.残余財産の分配については、発行価額を超えて分配は行わない。
ウ.一定期日において、発行会社は本件株式の全部を発行価額で償還する。
エ.議決権を有しない。
オ.他の株式を対価とする取得請求権を有しない。

(1)社債類似株式の評価
 社債類似株式は、その経済的実質が社債に類似していると認められることから、利付公社債の評価(評価通達197-2(3))に準じて発行価額により評価しますが、株式であることから既経過利息に相当する配当金の加算は行いません。

(2)社債類似株式を発行している会社のそれ以外の株式の評価
 社債類似株式を発行している会社のそれ以外の株式は、貸借対照表上、資本ではなく社債類似株式を社債(負債)であるものとして評価します。

[3]拒否権付株式の評価

 拒否権付株式(黄金株)については、拒否権があることを考慮せず普通株式と同様に評価します。

【今回のまとめ】

 非上場会社が発行する種類株式のうち、[1]配当優先の無議決権株式、[2]社債類似株式および[3]拒否権付株式については、前述の通り国税庁より公表された「種類株式の評価について(情報)」(平成19年3月9日)により、具体的な評価方法が示されています。ただし、非上場会社の発行する種類株式のうち、財産評価基本通達によって評価することが著しく不適当なものについては、個別に権利内容等を判断して評価を行うことが原則的な取扱いとされるので、留意が必要です。

(税理士法人タクトコンサルティング 税理士 山崎信義)

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