日税グループは、税理士先生の情報収集をお手伝いします。日税ジャーナルオンライン

MENU

実務に役立つ税務会計オンラインラボ

ものづくり補助金を受けた場合の税務

2023/12/26

 ものづくり補助金とは、中小企業等が生産性向上のために革新的なサービス開発や試作品開発、生産プロセスの改善を行うためにする設備投資などを支援する補助金制度です。

 ものづくり補助金を受けて行う設備投資は通常高額になることが多いため、税務上も気をつけるべき点があります。

1.補助金に対する課税の繰り延べ

(1)法人に対する規定

 ものづくり補助金を受けた場合、補助金は収益として認識され、全額益金になります。しかし、補助金を受けた事業年度に一度に課税されてしまうと税負担によって資金不足となり、対象となる資産を購入することができないといった事態になりかねません。

 そのような事態を避けるために、法人については、法人税法42条に国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入の規定が用意されています。いわゆる圧縮記帳といわれる規定です。補助金などの収益についてその事業年度において返還を要しないことが確定している場合※1には、一定の限度額のもとで固定資産の帳簿価額から損金経理により直接減額又はその期の決算において積立金として積み立てることにより、その減額又は積立金額を当期の所得の金額の計算上損金の額に算入することができます。

 圧縮記帳によって、ものづくり補助金の益金の額と当該損金の額が相殺され、その期の税負担を軽減することができます。圧縮記帳は課税の繰り延べですが、ものづくり補助金に対して一度に課税されないという点でとても大きな効果があります。この規定の適用を受けるかについては、法人の任意であり、適用を受ける場合には、「別表13(1) 国庫補助金等、工事負担金及び賦課金で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」の添付が必要になりますので、添付忘れに注意しなければなりません。

※1返還を要しないことが確定している場合の判定については、ものづくり補助金の場合には、交付決定を経て、確定検査により交付額が確定した時期により判定し、交付の条件に違反した場合には返還しなければならないことや一定期間内に相当の収益が生じた場合には返還しなければならないことなどの一般的な条件は考慮しなくてよいこととなっています。

(2)個人に対する規定

 一方、個人については、法人に対する圧縮記帳といった規定は用意されていませんが、所得税法42条に、国庫補助金等の総収入金額不算入の規定が用意されています。当該規定は、国庫補助金等をもってその交付の目的に適合した固定資産を取得し、取得した年内に返還不要が確定した場合には、確定申告書に一定の事項を記載することにより、国庫補助金等のうち、その固定資産の取得等にあてた金額を総収入金額に算入しなくてよいとされるものです。

 法人税法と取り扱いを異にするのは、所得税法43条により、その年に返還不要が確定していなくても、条件付で当該補助金の額をその年の総収入金額に算入しなくてよいこととされていることです。この場合、その後返還不要が確定した事業年度において補助金等の目的となった固定資産の取得などに充てられた金額以外の額は総収入金額に計上することが条件となります。

 ものづくり補助金の対象となった固定資産の減価償却を行うにあたっては、実際に取得した価額から総収入金額に算入されなかった国庫補助金等の額を控除した残額をもとに行います。

 国庫補助金等の総収入金額不算入の規定も圧縮記帳と同様に課税の繰り延べの規定です。その年の税負担を軽減することができますので、適用する場合には「国庫補助金等の総収入金額不算入に関する明細書」の確定申告書への添付忘れに注意して下さい。

2.消費税について

 ものづくり補助金を受けて固定資産を取得することにより、当該取得資産にかかる消費税については、通常仕入税額控除を受けることができます。

 しかし、これはその固定資産を取得した事業年度又は年において課税事業者となっていることや簡易課税の適用を受けていないことが前提となります。

 ものづくり補助金の申請には、細かい要件や複雑な手続きの確認が必要となります。そのため申請サポートに気を取られ、顧客とのコミュニケーション不足により、固定資産の取得時期を事前に知らされていなかったことなどから、仕入税額控除に必要な消費税の届出書の提出を失念してしまうことも考えられます。特に免税事業者や簡易課税の適用を受けている事業者に対して、消費税課税事業者選択届出書や消費税簡易課税選択不適用届出書の提出を所定の時期までに忘れないように十分注意して下さい。

 ものづくり補助金を利用して取得する資産は高額になるケースも多いため、このような過失が生じないように、税理士としては、事前に申請スケジュールを組み、納税者との丁寧な意思疎通が重要であると考えます。

 ちなみに、ものづくり補助金の公募要領によると、補助対象経費には消費税を除外して算定する旨の記載があり、消費税額はものづくり補助金の対象とはなりません。

筆:坂部啓太 税理士/監修:湊義和 税理士

PAGE TOP