後発的理由を原因とする小規模宅地等の適用対象地の選択換えについて(令和元年7月1日前に開始した相続の場合)
2022/12/05
<質問>
小売業を個人で営んでいる被相続人X(73歳)(令和1年6月20日相続開始)の相続人は、長男Y(42歳)と次男Z(38歳)の2名です。Xの配偶者は5年前にすでに死亡しております。また、YとZ双方とも結婚はしておらず、Xと同居しており、Xの事業を補佐しています。Xには、小売業を営んでいる事業用A宅地、およびXとY・Zが同居している自宅の居住用不動産B宅地があります。
Xは、Yが長男ということもあり、Xの事業を引き継ぐという前提で、不動産のすべてをYに相続させる旨の遺言を残しました。
その後、Xが亡くなり、YはXの遺言により小売業を営んでいるA事業用宅地、およびB居住用宅地等を遺贈により相続しました。A宅地については特定事業用宅地として、B宅地については特定居住用宅地として、双方とも小規模宅地の特例要件は満たしています。
そこで、期限内の相続税申告の際に、小規模宅地特例の面積制限の関係から、YはA事業用宅地のみ小規模宅地等の特例を適用して期限内に申告をしました。不動産を相続していないZは小規模宅地等の特例の適用を受けていませんでした。
その後、Zから遺留分減殺請求がなされ、家庭裁判所の調停が行われました。もともとYはXの営んでいた小売業の商売にあまり熱心でなく、また性格的にも事業者向きではなかったところ、親であるXから、遺言によりなかば強引に事業を押し付けられたとの思いがありました。そこで、調停が行われるのを機に、自分の世界を歩みだしたいと思い、調停の結果、Zが事業を行うことになりました。そして、Aの事業用宅地はYではなくZが取得することになりました。なお、調停の際にYとZの間においてお互いが小規模宅地等の特例の適用を受ける旨の同意はなされています。
このような場合にYは小規模宅地等の特例の対象地をB宅地と選択替えをしたうえで更正の請求をしても良いのでしょうか?またZは修正申告においてA宅地について小規模宅地等の特例を適用することができるのでしょうか?なお、A・B宅地いずれも限度面積要件や小規模宅地等の特例の要件を満たしています。
<回答>
小規模宅地等の特例は、原則として当初申告後に適用対象宅地の選択換えをすることを認めていません。しかし、YはZによる遺留分減殺請求という相続固有の後発的事由に基づいて、当初申告に係る適用対象宅地を取得できなかったことになります。そのような場合にまで適用対象地の変更を認めないのは不合理と考えられます。このことから、ご質問者様のケースにおいては、小規模宅地等の特例の対象地をB宅地へ変更するYの更正の請求は、添付書類等の要件を満たす限り認められると考えられます。
また、当初申告において小規模宅地等の特例を適用しなかったZについても、遺留分減殺請求という相続固有の後発的事由に基づいて小規模宅地等の特例の対象地を相続したことから、修正申告において小規模宅地等の特例を受けることは可能と考えられます。
なおこの事例は、令和元年7月1日前に開始した相続の場合に適用されるものであり、同日以降適用される遺留分侵害請求においては、取り扱いが異なるのでご注意ください。
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租税特別措置法第69条の4
民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)による改正前の民法第1031条
執筆:山元俊一 税理士/監修:坂部啓太 税理士