合同会社における法人社員に対する業務執行報酬
2023/06/27
会員相談室という機関が東京税理士会に設置されています。私は、その相談員をお引き受けしており、担当は法人税です。税理士が、考え・検討してもなかなか答えを出し切れない難問が目白押しです。この経験は、税務のネタの蓄積には、かなり有用ではあるのですが、さすがにストレスが溜まります。
今回は、有限会社的に使われている合同会社の税務の相談では、まず経験できないものと出会いましたので、ぜひ、ご一緒にお考え下さい。その内容は「合同会社における法人社員に対する業務執行報酬」の取り扱いについてです。
1.相談の概要
A社は産学連携で設立された合同会社です。その業務執行社員は、大学教員である甲氏と株式会社であるB社とC社です(このケースでは、法人も業務執行社員となっています)。そして、B社は自社の役員である乙(個人です。)を、C社は顧問税理士である丙(個人です。)を業務執行者として選任しました。この場合、合同会社が支払う業務執行の対価につき税務上注意すべき点についてご教示下さい。
2.回答
合同会社が支払う業務執行社員甲、B社、C社に対する業務執行報酬の支払いは、個人であっても法人であっても、法人税法第34条の役員報酬の損金算入の制限を受けることになっています。
また、支給対象は、その法人あるいはその法人から派遣された職務執行者のいずれであっても、特に制約はないと思われますが、法人社員が一旦受給し、その受給を受けた法人が、職務執行者に給与等として支払うのが一般的であり、業務上の混乱が無いと思われます。さらに法人に対する業務執行報酬は、その法人B社、C社の益金として取り扱います。
また、合同会社A側では源泉徴収の必要がなく、消費税法上はCの課税仕入れに該当します。
3.解説
(1)会社法上の(合同会社)の法人社員とは
合同会社の社員には2つの側面があります。ひとつは、出資者としての側面、そしてもう一つは業務執行者としての側面です(今回は出資者として特徴には触れません)。合同会社では、原則として各社員が、業務執行権限を有する(会社法590条)ことから、出資者である法人も業務執行社員となることができます。
その根拠ですが、平成18年の会社法改正により、旧商法の規定は削除され、会社法の持分会社の条項において、有限責任社員であっても原則として業務執行権を有することとされたので、法人が合同会社の(有限責任)社員となることも、さらに業務執行社員になることもできるのです(会社法598)。
ただし、実際にその業務を執行する自然人(職務執行者)を選任することが求められています(会社法598条)。
余談ですが、米国法人のアマゾンなど「ガーファ」の日本子会社は、皆、合同会社です。理由は、米国親会社が代表社員になれるからです。会社分割的な組織再編の一形態と言えるのかもしれません。
(2)法人の業務執行社員の役員給与の取り扱い
法人税における取り扱いでは、法人税法第2条第15号に規定する役員には法人である業務執行社員が含まれることとされています(法基通9-2-2)。
したがって、法人である業務執行社員にも法人税法上の役人に関する各種規定が適用されることになるのです。合同会社Aから法人である業務執行社員B社、C社に対して支給される業務執行報酬は、個人である業務執行社員、甲同様に法人税法34条の規定の適用を受けることになるので定期同額給与あるいは事前確定届出給与のいずれかに該当しない場合、あるいは不相当に高額若しくは、事実の隠蔽や仮装により支給された部分は損金不算入とされます(持分会社の業務執行社員は使用人兼務役員となれないので、全額役員給与となります。)(法法34⑥、法令71①三))。
(3)消費税の取り扱い
個人である業務執行者ではなく、法人社員に対する支払いは、その金員の性格が雇用契約等に基づく労務の提供によるものではなく、法人社員の提供する役務の提供にかかる対価です。
したがって課税取引に該当し、合同会社Aにおいて課税仕入れに該当する取引と考えます(消法2①八②)。なお、消費税法基本通達5-5-10において、出向者の給与負担金については、給与の性格を有するので不課税という取り扱いとされています。
ただし、法人社員の業務執行の対価については、派遣された業務執行者に対するものではなく、法人社員が行う経営に対する役務提供であるため、同通達の規定の解釈は及ばないものと判断しています。
執筆:坂部達夫 税理士/監修:又邊美奈子 税理士